2006年8月29日

『WiPi』試用レポート〜書名を超えて

 Wikiではなく「WiPi」(ウィーピィ)。書籍とゲームソフトに関するクチコミをブログから収集して提供するサーチエンジンである。「Wisdom+Opinion」の略だという。

WiPi「『ウェブ進化論』のクチコミ」

 こちらで「Web2.0と将棋と鉄道」がリストアップされていた。

WiPi「『定刻発車』のクチコミ」

 三戸祐子著の「定刻発車」とは関係のない記事も表示されてしまっている。どうやら、単純に本文中から「定刻発車」という文字列を探しているらしい。一件目に挙がっていたブログでは、「まず、安全第一でした そして定刻発車が目的でした」という部分でひっかかっているが、本書とは関係がない。

 普通、本のことを書くなら書名・著者名・出版社名をセットで書くのが常である。が、書名だけで何とかなってしまうジャンルがあった。ベストセラーとコミックである。WiPiのトップページにはクチコミのランキングがあるが、上位に出てくるのはベストセラーの新書とコミックばかりである。たいていのベストセラーのタイトルは、まるで商標のごとく一意性が高い。ちょっと長かろうとも、タイトル全体が一つの固有名詞になっていく。

 もともと、ベストセラーやコミックはクチコミで売れているわけだから、売れているものについてのクチコミをさらに集めてもしかたがないように思える。むしろ、まだブレイクしていないものに関するクチコミ、流行の先を行くブログをこそ、人々は読みたいと思っているのではないだろうか。

 あるいは、これから買う人のためのクチコミではなく、既に買った人同士が感想を言い合う、仮想的なコミュニティのようなものが求められているのだろうか。ならば、値段の比較やアマゾンへのリンクは無用の長物に思えてくる。

 「東京タワー」なんてのは一体どうなってしまうのかね…と、好奇心が頭をもたげてきた。

WiPi「『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』のクチコミ」

 多分にクチコミが反映されているであろう「本屋大賞」に選ばれている、あの「東京タワー」について、ブログの記事が74件しかないなんてことはありえない。恐らくは、副題の部分を正確に記述していない記事が漏れているのであろう。対して、書名の一意性が高い「生協の白石さん」は200件、「県庁の星」は198件、「まほろ駅前多田便利軒」は141件などとなっている。ちなみに、200件以上は表示されないらしい。適合度か日時をもとに200件を超える分はふるい落としているようだ。

※…となると、表示されている「評価」は200件以上のクチコミの評価を平均したものなのだろうか。それとも、200件以内での平均なのだろうか。

 もっと悲惨なタイトルもある。小学館刊、西加奈子の「さくら」では、「さくら」(植物の名前)「さくらももこ」「さくら市」「さくら」(ブルートレイン)「さくらちゃん」(ペットの名前)など、ありとあらゆる平仮名の「さくら」とマッチしてしまい、惨憺たるリストになっている。せめて著者名をAND条件で含めたマッチを行なって欲しいものだ。

 コミックなら問題なしかと思いきや、ほしよりこ著「きょうの猫村さん」に、意外な落とし穴があった。Nifty側のデータベースに登録されている書名は「きょうの猫村さん 1」と「きょうの猫村さん 2」であり、「きょうの猫村さん」という書名は存在しない。従って、ブログで「きょうの猫村さん」と書いただけでは、WiPiに拾われないということが起こる。かくして、「きょうの猫村さん 1」のクチコミの件数はたったの2件。スペースと数字を含めて書名を正確に書いている律儀な人のブログしか出てこない。一方、「きょうの猫村さん 2」の方は、ブログの書き手も続編であることを意識して数字を含めて書いているようで、118件も出てくる。この差は極端だ。「きょうの猫村さん 1」のことを指して「きょうの猫村さん」と書いているブログにこそ、「きょうの猫村さん」シリーズのヒットの理由が隠れていそうな気がする。なんだかもったいない話である。

 アマゾンのコミックでトップセラー1位になっていた赤松健「魔法先生ネギま! 16」(講談社)を例にすると、もっと厄介なことが起きていた。このコミックには定価980円の限定版と、420円の通常版とがある。Niftyのデータベースでも2種類の本として別々に登録されているが、書名はどちらも「魔法先生ネギま! 16」である。これでは版の区別はできず、分けて登録しておくことには意味がない。また、ブログで「ネギま16巻を購入」などと書かれていてもマッチしない。コミックの読者層でブログに「魔法先生ネギま! 16」と書く律儀なユーザーがいるとも思えず、WiPiのようなアプローチでのクチコミの収集は事実上不可能といえる。

 しかし、それでも当の「ネギまファン」たちは、自分たちのやり方でクチコミ情報を流通させていることだろう。そもそも、それがクチコミというものなのだから、WiPiが介在する余地はなさそうだ。とすると、WiPiのようなものは堅めの本を主なターゲットにして検索の精度を高めていくべきなのではないだろうか。

 実は、本のクチコミ≒書評では、書名そのものは大して重要な情報ではない。たいていの書評では「○○氏の最新刊」などという具合に本を紹介する。大事なのは著者名なのである。あるいは、本の内容そのものであれば「Web2.0ブームの火付け役」などという具合に、図書館でつける件名にあたるキーワードが重要になってくる。そうなると書名はおろか、著者名さえもどうでもよくなってくる。

 「ウェブ進化論」に興味を持った人は、「ウェブ進化論」という書名に興味があるわけでも、梅田望夫という人に興味があるわけでもない。ましてや筑摩書房という出版社に興味があるわけでもなく、本の中身に興味があるのである。キーワードは「Web2.0」「Amazon」「Google」「ITバブル」「ネットワーク社会」等々。このキーワードに関する本の一つとして、「ウェブ進化論」に興味を持っているのである。

 だから、求められるクチコミというのも「ウェブ進化論」の感想文ではなく、「ウェブ進化論」にくっついてくるキーワードと同じキーワードがくっついてくる別の本の情報や、キーワードそのものに関するコメントなのである。例えば、「数式を使わないデータマイニング入門」(岡嶋裕史)とか、「「複雑ネットワーク」とは何か」(増田直紀、今野紀雄)、「グーグルGoogle」(佐々木俊尚)、「IT革命」(西垣通)といった本が芋づる式に出てこないと役に立たない。

 そんなことができるものか…と思われるかも知れないが、まともな図書館のレファレンスカウンターを利用すれば、司書さんがたちどころに上記の類の本をかき集めてきてくれるはずだ。それに近いことをウェブ上で実現しようとしているものに、国立情報学研究所(NII)高野研究室から生まれた「新書マップ」がある。これの欠点は、出版社側が用意している本の目次や要約しか表示されないことだ。ここに一般の人のブログの記事が出るようなものが作れれば、WiPiは一定のポジションを確保できるのではないだろうか。

 以下は余談になる。

WiPi「スタッフブログ」

 目立たないが小さなロゴが右下にあり、Niftyが提供しているサービスだとわかった。NTTの研究所と直結しているgooに対抗してか、いつのまにか「@Niftyラボ」なるサイトまでできていた。

@Niftyラボ「ベータ版ってなに?」

 こちらでは、「ベータ版」についての簡潔な説明がある。よくできている。私のサイトでは、実はベータ版に関する説明を回避するためにベータ版を公開していなかったりする。ベータ版に対して正式版並みのサポートを要求される方が出てくると、一人では対応しきれない。

 …ということは、もしかして「永遠のベータ版」には永遠に正式なサポートがつかなくてもいい、ということになるのだろうか。これは開発者やヘビーユーザーにはフレンドリーであるが、ビギナーには大変アンフレンドリーなシステムといえないだろうか。

 実際には、ハサミのメーカーにハサミの使い方に関する問い合わせが来ないように、誰でも迷わず使えるくらいにユーザーインターフェースを洗練させていけばいいだけの話かも知れない。

 ちなみに、ラボ→試験管というステレオタイプなイメージは何とかならないものだろうか。ソフトウェアに関する研究や開発の光景は、一見すると普通のオフィスと変わらない。それどころか、もしかすると遊んでいるように見えるかも知れない。Googleの本社を見学した人は、Googleの開発者たちがリラックスして遊んでいるように見えるという。しかし、そういうところからAdSenseやGoogleMapが出てきたりするのである。

 Googleで大規模なシステム障害が起きたり、セキュリティの問題が起きたりしないのは、一人一人が仕事の全体像を理解していることと、リラックスして仕事をしていてミスに気づく余裕があるからではないだろうか。日本のソフトウェア開発の現場には、そういう余裕が足りないと聞く。だから製品の質も下がるし、革新的な製品も出てきにくいのではないか。

 そういうことを広く考えてもらうためにも、もっと現実的なイメージを提示していくほうがいいのではないだろうか。
この記事へのコメント
詳細な試用レポートありがとうございます。
クチコミサーチWiPiのスタッフの上符と申します。

「定刻発車」のような多義語の取扱いや、コミック関連の表記の曖昧性の問題など、現状ですとまさにご指摘の通りの状態です。

特に多義語の取扱いは開発段階より「東京タワー問題」と呼び、どうやって江國香織とリリーフランキーを区別するかを検討しておりまして、まもなく著者名などを考慮した形での検索精度向上をお披露目できるかと思います。

「新書マップ」などのアイデアは大変面白いと思いますので、今後のサービス向上の為に参考にさせていただきます。
Posted by クチコミサーチWiPiスタッフ at 2006年9月4日 21:41
コメントありがとうございます。直接やりとりができるとは、さすがWeb2.0の時代ですね。

クチコミサーチの「サーチ」の部分で、検索窓では書名しか受け付けないというのは、ちょっと不便です。書名を知らなければ検索できませんし、著者名で探そうとしたときにいきなり「○行の著者」の本がずらりと出てしまうのも不便です。検索窓に著者名を入れてダイレクトに取り出せるとよいのですが。

また「サーチ」には、狭義の検索(retrieval)以外にもいろいろな方法があります。著者名の一覧や関連する本の一覧をあてもなく眺めるといった探し方(探索)もできるようになっていれば…と思います。何気なく見ていて意外な本や新しい関心領域との出会いがあると嬉しいものです。

もう一方の「クチコミ」の部分では、ブログユーザーが自分のブログにクチコミを書いてWiPiにトラックバックできるようにするなど、クチコミそのものを増やしていく仕組みもあるとよいですね。

それはともかく、まずは著者名を含めるだけでだいぶ良くなりそうですね。期待しています。
Posted by tht at 2006年9月9日 11:55
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