2006年3月31日

気象庁のスパコン事情

 気象庁が3月1日から、新しいスパコンを使い始めた。大きく外れることが増えたと言われる天気予報、確かさの改善なるか。

朝日新聞「天気予報のスパコン、世界トップ級に 速度28倍」 2006年2月26日
 > 長坂昂一気象庁長官は「長期予報が難しいのは事実ですが、
 > スーパーコンピューターの機能強化を予報精度の向上につなげたいです」と話している。

 「つなげたいです」という表現がポイントである。民間企業のプレスリリースや社長会見なら「つなげたいです」はないだろう。確実な見通しがあるのかないのか。いくらの投資でどれだけの効果があるのか。こんな重要なことが明らかでなければ、株主総会が紛糾しかねない。

東奥日報社説「天気予報をもっと人間的に」 2003年9月4日

 天気予報の当たり外れが死活問題になるという人もいる。その当たり前のことを、もしかしたら気象庁でスパコンいじりをしている人たちは忘れかけているのかも知れない。

西川渉『航空の現代』「情報量と精度」 2000年4月20日

 人の手・人の目・人の頭で予報をする場合は、自ずから処理できる情報量に限界があり、情報の取捨選択や重み付けが自然と行われる。天気予報に限らず、熟練した人ほどポイントをおさえたきめ細かい観察をして、膨大な判断をしているものだ。

 ところが、それをスパコンに任せようとすると、半端な情報量では人間以下の精度に落ちてしまう。闇雲に情報量を増やせば処理能力が無駄に食い潰されてしまう。少ない情報量でそれなりに確度の高い予報を…となれば、ベテランの勘をプログラムに移植するしかないが、それも容易ではない。

 現実的には、やはり東奥日報の結論と同様、スパコンに頼り切らない予報というのが望ましいのではないかと思ってしまう。スパコンが粗相をした時に、ベテラン職員が気づいてフォローしなければならない。そのためには、スパコンに任せる部分、スパコンをアラームとして活用する部分、人間が担当する部分といった具合に線引きをしておくことも必要だろう。

 ☆ ☆ ☆

日経ITpro「日立が気象庁に21.5テラFLOPSのスーパーコン納入」

 > 価格は2億7720万円から。

http://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/hpc/SR/11k_k1spec.html

 21.5テラFLOPSとのことなので、160ノードのモデルということになる。129ノード以上のお値段は個別見積もりということだが、前回の納入が2001年だという。5年でリプレースできるくらいには「リーズナブル」のだろう。(そうでなければ無駄遣いである。)

http://www.jma.go.jp/jma/press/0412/24b/yosan1224.pdf

 256ノードなどキリのいい数字ではなく160ノードなのが気になるといえば気になる。予算の綱引きで妥協したのだろうか。2005年度は1億4500万円の予算が確保されている。ただ、スパコンの性能がアップしても、インプットする情報の量が従来と同じでは困る。スパコンよりも通信網の整備に多くの予算が割り当てられており、次のリプレースまでに全国の観測網をよりきめ細かくしたいということか。すると、それまでは中途半端であまり当たらない予報に付き合わされることになるのかも知れない。

 メーカーのサイトでPDFのカタログがダウンロードできる。仕様が細かく説明されているので、興味のある方には閲覧をおすすめしたい。ちなみに、こんな製品でも「安全に関するご注意:ご使用の前に必ずマニュアルを…」という注意書きがあるとは思わなかった。確かにPL法に価格の上限はないようだし、購入者や使用者が企業や官庁の場合でも保護されるようだ。

 余談だが、大学の一研究室レベルでも、秋葉原で買ってきたパーツだけでそれなりの性能(一昔前のスパコンを超える性能)のグリッドコンピューティング環境が構築できる時代になった。いい時代である。スパコンを使うことに意義がある時代は終わったわけで、スパコンを使ってどう成果を出すかということにシフトしなければならない。税金を使う気象庁ならなおさらである。

 ☆ ☆ ☆

日立製作所「スーパーテクニカルサーバ「SR8000」が気象庁殿で稼働開始」 2001年3月1日

 今回置き換えられたスパコンが導入された際のメーカー側発表資料。以前からの60km四方・20km四方の数値予報モデルに加え、5年前に10km四方、今回は5km四方と、少しずつ精度が上がってきたことがわかる。ただ、これは必ずしも予報の確かさのアップに貢献するとは限らない。20km四方では無視できた誤差が、16倍細かい5km四方では無視できなくなるということだ。

文部科学省・情報科学技術委員会「計算科学技術推進ワーキンググループ(第10回)配付資料 キラーアプリケーションとシステムの要件 分野別要求性能詳細」

 さらに25倍細かい(20km四方と比べれば400倍細かい)1km四方で予報するため、2010年ごろに230テラFLOPSのスパコンを利用することが想定されている。今回導入されたものの10倍の演算速度ということになる。

東芝「ソニー・コンピュータエンタテインメントと、IBM、東芝、ブロードバンド時代に向けた超並列プロセッサの共同研究および開発に合意」 2001年3月12日

日経BP・ビジネスイノベーター「オンデマンドへのビジネス変革を支えるITシステムとは」 2003年4月25日

ITmediaエンタープライズ「「ペタコンピュータができれば、ヒトの心を実証的に研究可能に」と理研の戎崎氏」

 諸説あるようだが、人間の頭脳は10〜200ペタFLOPS(1ペタ=1000テラ)に相当すると試算されているらしい。1997年にチェスの世界チャンピオンに勝ったスパコンは8テラFLOPSで「トカゲの脳ぐらい」だったとのこと。ウサギとカメの競争でカメが勝つようなもので、専ら「疲れ知らず」が勝因なのだろう。21テラFLOPSだと、どんな動物に相当するのだろうか。トカゲ3匹に足りないと見れば、大差なさそうだ。気象庁のベテラン職員が3人も集まれば、まさに文殊の知恵であろう。

 ちなみに、Pentium4 3GHzでは12ギガFLOPS。

気象庁「用語解説 アンサンブル予報」

 今回のスパコン更新に関する記事でも触れられている「アンサンブル予報」についての解説。この計算パターンを倍に増やすとのこと。予測が一層ばらけるだけで、今より当たりにくくなってしまうような気もするが…。

「「気象庁提供データ」を使おう」(個人のサイト?)

 気象庁の数値予報データは、ちょっとした研究にも活用できるようだ。(いきなりでは何が何やらわからず、とても使いこなせそうにないが。)
posted by tht at 23:41 | コメント (0) | トラックバック (0) | ながめよみのすすめ
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