2006年4月1日

赤レンガ駅舎のアイデンティティ

 東京駅の丸ノ内本屋・赤レンガ駅舎が、建設当初の姿に復元される。終戦直後の涙ぐましい補修で生まれた現在の角屋根は姿を消す。

 移転できる余剰容積率を発生させるためには、増築となる3階建てへの復元しか選択肢がないのだろうか。容積率の移転を受けたオフィスビルは、一足先に竣工している。もう計画は変更できない?

関東財務局「地域経済における特徴的な動向 東京都心の再開発事情」

 > 東京駅周辺地区においては, 「特例容積率適用区域」という制度が適用され,
 > 2階建てから創建当時の3階建てに復元される東京駅駅舎の整備で余剰となる容積率を
 > 周辺ビルの容積率に加えることができるようになる

 「未利用容積率の移転」というのは極めて合理的な発想であり、「先祖代々の土地」といった感覚を持ったトラディショナルな日本人にとっては理解が難しい。まさに紙の上の話といったところか。

 規制緩和を目的とした法改正で可能になった。私たちの感覚が近代から抜け出せないうちに、法律だけがはるかかなたへ行ってしまった。

 東京駅の歴史が、未来の渦に巻き込まれていく。

 △ △ △

FORUM×ATOS:[2509] 東京駅丸ノ内本屋(赤レンガ駅舎) 2005年12月5日

 駅舎はJRの資産だ。基本的にはどうしようとJRの自由であるが、重要文化財の指定を受け入れた時点で事情は変わる。

文化庁、国指定文化財等検索システム「東京駅丸ノ内本屋/重要文化財(建造物)・その他近代/東京」

 > 我が国の長い歴史の中で生まれ、育まれ、今日まで伝えられてきた貴重な国民の財産です。

 > 日本の近代化に大きな役割を果たしてきた産業,交通,土木に係る構造物については,技術革新や産業構造の変化等により取り壊しが進んでいる。このような構造物が,我が国の近代化を担いながらも現在失われつつある状況の中で,近代化遺産としての物件の特定及び保存のための調査,及びそれに基づく指定を行っている。

 近代化遺産の中には今にも取り壊されそうな状況にあるものが多いため、このような説明になっている。製糸工場や変電所などが念頭に置かれている。もちろん、この中に鉄道の駅舎も含まれる。ただし、東京駅はちょっと特殊だ。戦災という特別な事情が、事態を複雑にしている。

 近代化の遺産という文脈では、オリジナルに歴史的価値がある。戦災および戦後復興の遺産という意味も考慮するとすれば、オリジナルが損壊し別の形に修復(復元でなく)された現在の姿にも、大きな歴史的価値がある。それでもオリジナルの外観に復元すると決定した裏には、どんな気持ちがあるのだろう。戦争の傷痕は一掃したい、仮の姿をさらし続けるのはみっともない、というのだろうか。戦後というものを早く過去に封印したいと未だに焦っているという、ある意味では戦後を引きずる錯綜した感覚があるのかも知れない。

 保存に値する貴重な建築物という点で誰も異論はないだろう。補修もせずに放置すれば朽ち果てるだけだ。しかし、どのように補修するのか、議論が尽くされたとは言いがたい。着工は早過ぎはしないか。未利用容積率の移転に関係して、既に竣工した移転先ビルが違法建築にならないためには赤レンガ駅舎側の工事が遅れてはならないのかも知れないが、そんな目先のことで動いて本当に良いのだろうか。もしも…もしもの話であるが、2階建のままの補修工事では建築工事と見なされず容積率の移転ができない、増築になるので建築工事として扱える3階建への復元しか選択肢がない…といった事情があるのなら、ありのままに説明して欲しい。そうすることでしか工事・保存のための資金が捻出できないのなら、あきらめもつくというものだ。

 キトラ古墳の壁画が劣化してしまった悲劇を思い出してみたい。壁画を見たいがために石室を傷つけた上、壁画自体も崩れる恐れが出てにっちもさっちも行かなくなってしまった。歴史上、取り返しのつかない失敗である。一度失ったものは永久に失われる。今そこにある、ありのままの姿をしっかり保存するということこそ、数百年〜数千年のスパンで考えた時に意味のあることではないだろうか。

 幸いにして、東京駅は現役の駅舎だ。記録に残すことも、工事の際に丁寧に建材をはがして保管しておくことも可能だ。いずれ余裕のある時代になり、また世論が変化したりした時に、再び現在の姿に戻せるようにしておくこともできるのではないだろうか。

 △ △ △

文化審議会答申「重要文化財(建造物)の指定について」

 > 煉瓦造で最大規模,首都東京を象徴する建築
 > 東京駅丸ノ内本屋は,皇居から東へ一直線に延びる通称行幸通りの正面に位置している。
 > 明治41年3月25日着工,大正3年12月14日に竣工した。設計は辰野金吾で,辰野葛西事務所によって実施案がまとめられた。
 > 南北折曲り延長約335mに及ぶ長大な建築で,中央棟の南北に両翼を長く延ばし,建設当初は,地上3階建であった。
 > 建築様式は,いわゆる辰野式フリー・クラシックの様式になる。
 > 東京駅丸ノ内本屋は,わが国鉄道網の起点となる停車場の中心施設であるとともに,
 > 明治の市区改正計画に基づき建設された首都東京を象徴する貴重な建築である。
 > 煉瓦を主体とする建造物のうち最大規模の建築で,当時,日本建築界を主導した辰野金吾の集大成となる作品として,価値が高い。
 > ○指定基準=意匠的に優秀なもの,歴史的価値の高いもの

 「辰野式」というのは褒め言葉なのだろう。日本らしからぬデザインでありながら日本にマッチする、ヨーロピアンなものをうまく取り入れたというところに力量が垣間見られる。オリジナルの丸屋根は、どことなく寺院のようではないか。

「東京駅あれこれ」 (個人のサイト)

 > 東京駅はアムステルダムの真似ではない!

 オランダのアムステルダム中央駅。辰野がこの駅をどのくらい意識したかはよくわからない。二つの駅舎を見比べると、真似ではなくともモデルにはなっているだろうというのは想像できることだ。あるいは、共通のモデルがよそにあるのかも知れない。実際に行って見たことがなくても、文献やら伝聞やらにヒントを得て、いろいろなものを参考にするのが創作というものである。建築家たるもの、諸外国の著名な建築物をまったく参考にしていないということもないだろう。この駅と東京駅が先日、姉妹駅になることになった。

 余談だが、オリジナリティというのはそんなにもろいものではない。同じモデルを別々の人がスケッチすれば、まったく異なる作品ができあがる。モデルが同じ、あるいは何かをモデルにしたというだけで、作者の個性やセンスが疑われるということはありえない。東京駅とアムステルダム中央駅が似ていると言われて、赤レンガ駅舎や辰野金吾のファンが落胆したり怒ったりする必要などまったくないはずだ。
posted by tht at 17:03 | コメント (0) | トラックバック (0) | ながめよみのすすめ
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