2006年4月25日

ホワイトカラーの指差し呼称

 2月の新橋と似たような事故が、わずか2ヶ月後の高田馬場で起きた。

 線路の下で行われていた工事の影響で、山手線の線路が最大5cm隆起した。2cmでも脱線の恐れが高まるという。負傷者がゼロでも、極めて重大な事故である。

 「列車を止めずに工事する」というのは、どう頑張っても危なっかしくて難しいことなのだ。工法に関わらず通用する再発防止策をまとめることが欠かせないだろう。「指差し呼称」がキーワードになるか?

 都道の幅を広げるだけの工事なのに、どうしてJRが施工しているのか。線路まわりの工事は特殊である(と鉄道側は主張する)という「技術的な理由」だけでなく、工事が鉄道の運行に影響を与えないよう、鉄道側が主体的かつ一元的に管理するという「経営的・危機管理的な理由」もある。ちょっと変な表現をすれば、非常に大きな責任をJRが自ら抱え込んでいる形になる。そうした工事のありようの中で、今回のような事態である。すべてがJRにふりかかってくる。

 新宿や浦和など大型プロジェクトが目白押しで、「列車を止めずに工事ができる」といった数々の新技術が投入されてもいる。線路の下に道路を作る工事についても例外ではないようだ。今夜の「報道ステーション」(テレビ朝日系)では、工法に焦点を当てていた。今回の現場で使われている「HEP&JES工法」の開発に携わったという大学教授は「この工法は既に多くの現場で使われている。工法自体に欠陥があれば事故がもっと起きているはずだ。気が緩んだのだろう」としている。

 「列車を止めずに工事する」というのは、どう頑張っても危なっかしくて難しいことなのだ。技術開発が進めば進むほど、工法はブラックボックス化していく。作業員一人一人のレベルでは全体のことがわからない、個々の作業の結果がどんな危険を招くのか想像が及ばないということにもなりうる。現場監督より上の人たちが、よほどしっかりしていなくてはならない。現に電車がひっきりなしに通る線路の直下で日中に工事をしていたのだから、相当の自信があったのだろう。それでも事故は起きた。

 危険を伴う現場には、指を差しながら大声で「○○ヨシ!」「○○支障ナシ!」などと叫ぶ「指差し呼称」がある。無意識に起こすのがミスというものだ。集中力を高め、無意識を意識に変えることでミスを防ごうという取り組みである。

 今回の現場でも、指差し呼称は守られていたのだろう。作業員たちの身に危険はふりかかってこなかった。危険にさらされたのは、線路の上の数千人の乗客である。工法について熟知している(べきである)人たち以外に、これを防ぐことはできまい。新しい工法を実際の工事に適用する段階では、様々な注意点が既にリストアップされているはずである。これを逐一確認する、いわばホワイトカラー版の指差し呼称はできないか。工法自体に欠陥がないなら、あくまで施工管理の問題なのだ。いちいち「○○ヨシ!」と律儀に確認しても、確認のしすぎということはないだろう。

 日経の記事によれば、同じ工法を使用している28の現場で工事を中断したという。しかし、工法そのものに問題がないのなら、根拠のない過剰な対応ということになる。ほとんどが地元では完成が待ち望まれている立体交差であろうから、工事の遅延は最短にしてもらいたいところだ。むしろ新宿駅など、より危なっかしい工事をしている現場はたくさんある。工法に関わらず通用する再発防止策をまとめることが欠かせないだろう。

 なお、「うっかりミス」や「指差し呼称の形骸化」についてはこのページが参考になった。JRはヒューマンエラーに関する研究まで自前でやろうとしているようにも見受けられるが、餅は餅屋とも言う。これは強風警報システムの話にも通じることである。
posted by tht at 01:01 | コメント (0) | トラックバック (0) | ながめよみのすすめ
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