2006年7月16日

人とシステムの付き合い方

 ようやく「ながめよみ」が板についてきたような気がする。かまぼこである。

 インターネットの普及で何ごとにつけても詳細な情報を得るのが楽になったが、一方で総合的な視点を得るのは難しくなった。細部を知るために必要な情報と、全体を知るために必要な情報は異なる。その見分けにはコツがいる。コツとはずばり、「深すぎず狭すぎず」である。

 知れば知るほどわからなくなる気がするのは、見ている情報が細かすぎるからだ。かまぼこの分子構造を見ても、かまぼこの味はわからない。細かければいいというものではないのだ。これが「深過ぎず」ということである。

 そのかまぼこはおいしいのか。おいしいというためにも、おいしくないというためにも、比較できる別のかまぼこが必要だ。それが「狭過ぎず」の部分だ。しかし、世界中のかまぼこを買い集めるわけにも行かない。定評のあるかまぼこを網羅する、あるいは、自分の周りにある「気になるかまぼこたち」を集めてくるだけで十分だろう。広ければいいというものではないから「狭過ぎず」なのだ。

 今回のキーワードは、コミュニケーション、フィードバック、アラーム、タクシー、性悪説。

 HEP&JES工法を使用した工事現場で線路が隆起する事故が起きた直後、「うっかりミス」を防ぐための「指差し呼称」の考え方を応用することで事故を防げないか…というを書いたが、その続きになる。事故の原因と対策が公表されたので、一度書いた手前、フォローせねばなるまい。(なぜだろう、一度書いた話題の続きを書くというのは、最初に書くときより大きな労力を必要とする。だからブログ界では旬な話題が瞬に載るだけで消えていくのか。)

 簡単に言えば、こちらでいう「水を入れないで火をつけて鍋をこがしてしまった」に相当するミスだろう。いや、作業員に工法が理解されていなかったとすれば、ミスですらない。ミスというのは注意によって回避が可能なものを指す。予備知識がなければ回避は不可能であるから、ミスとはいえない。

 「水を入れないで火をつけて鍋をこがしてしまった」場合、すぐに気がついて火を止めれば、大事には至らずに済む。しかし、今回の事故では線路が隆起したことを現場は認識できなかった。何か問題が起きているということにすら気づいていなかったのである。「水を入れないで火をつけると鍋がこげる」ということ自体を知らなかったのだから、「火をつけた後に鍋の中を確認する」という作業が行なわれているはずもない。

 まるで何のセンサーも持たずに猪突猛進する試作品のロボットか、古くなって手応えのなくなった操作レバーのようである。工事というのは、モノや現象を相手にしたコミュニケーションであるといえる。どんな作業も、手応えを確認しながら=操作対象からのフィードバックを得ながら行なうのが基本である。フィードバックというのはコミュニケーションにおいて「反応」「返答」のことであるが、相手の反応を見ずに一方的に作業をしていいはずがない。

 前回の項で「工法に関わらず通用する対策を」と述べたが、本意はここにある。HEP&JES工法という工法の名前を散々書いたために誤解を受けては困るので補足しておくが、工法そのものや運転を止めずに施工するという方向性を問題視しているのではない。あくまで施工管理の問題なのだ。「指差し呼称」を持ち出したのも「基本の徹底を」というおざなりな意味ではなく、モノや現象の状態を声に出して確認することで、モノ言わぬモノが発するフィードバックを確実に受け止められると言いたかったのである。そのための方法として「指差し呼称」がベストなのかはわからない。新しい方法が必要なのかも知れないという意味で「ホワイトカラー版の指差し呼称」と書いたわけだ。元請や現場監督の仕事はホワイトカラーである。その現場で使う工法については、失敗やミスが起きやすいポイントを確実に把握しておかねばならない。そうでなければ、他の誰がミスや事故を防げるのか。

 こうしている間にも、類似の事故が多発している。病院では患者の容態の急変を知らせる警報が無視され学校のアスベスト除去現場ではフィルターの目詰まりを知らせるランプを誰も見ていなかった。いずれもフィードバックの欠如や無効化が原因である。

 警報が誰に対するでもなく漠然と発せられ、誰もが自分に向けられたものだと思わないために、警報の無視という事態が起きてしまうわけだ。現場に何人のスタッフがいて、誰がどの仕事をしていて誰の手が空いているのか…システムがそこまで把握して、手の空いている人に対して確実に警報を届け、受領確認もする…そのくらいのシステムにしないと、警報の見落としというミスは続発するに違いない。

 病院のような空間であれば位置タグの設置も容易だろう。個々のスタッフにヘッドセットのついた端末を持たせ、システムによる指示や警報は音声で聞くことができ、受領確認の応答も声でできるといったユビキタスなシステムを作ればいいのではないだろうか。タクシーの配車システムに近いイメージである。病院とタクシーを一緒にするな、と叱られるかも知れないが、あくまでシステムの話である。参考になるものは何でも参考にするべきだ。

 このブログを医療・看護の(学生を含む)関係者の方がご覧になることがあるかはわからないが、もしいらっしゃれば下記のサイトをおすすめしたい。

・「ナースに役立つ種類のサイトとは? Nurse's SOUL

 「医療ミス、看護ミス、リスクマネジメント」のページが参考になるだろう。こちらに書かれている通り、看護大教授の手によるサイトである。

 「保健医療情報学」という分野があるとは知らなかった。研究テーマを拝見すると、私も興味のある内容が目白押しだ。「…情報学」の部分はフレームのようなものだから共通しているのだろう。サイトのコンセプトには共感できる。私のサイトも、いずれはこんなサイトにしたい。リニューアルに先だってリンク集の拡充から始めているのだが、この方向性に自信を持つことができた。

 思えば、いつからリンク集は軽んじられるようになったのだろう。私も最初は気合いを入れてリンク先へのコメントを書いていたが、後発のサイトにコメントを流用されるのには閉口した。リンク先の選定にも、コメントにも、労力がかかっているのである。それを認めて欲しいな…という気持ちになるのだが、どうもリンク集というのは「コンテンツにあらず」「誰が作っても同じ」と捉えられているように感じる。そうではないと思うのだが。

※そうか、そういうことを解説する「リンク集の作り方」なるサイトでも作ればよいのだ。それが「…情報学」の本家たる「情報学」の仕事であろう。

 ミスの話に戻ろう。病院からアスベストまで、本質的には同じ種類のミスによる事故が続いているのだ。こういう認識が、鉄道、医療、その他のあらゆる業界の中で共通しているか。そうでないから続くのではないのか。

 パロマの一酸化炭素中毒、トヨタのリコール隠しにもゾッとしたが、まさに「一組織の体質の問題」ではないことがはっきりしてきた。三菱の事件も「三菱の体質」に帰結させて幕引きを図るべきではなく、どんな企業でも同じことが起き得るという認識が必要なのだ。

 冒頭に挙げたヒューマンエラーに関するページでは、「失敗の経験を積む」「失敗を重大な事故につなげない仕掛けを作る」といった対策が挙げられている。幸いにも山手線の事故では「運転士が気がついて止める」という「仕掛け」が有効に機能したため、大事には至らなかった。つくづく鉄道というシステムが持つ手厚い、有形あるいは無形のフェールセーフの仕組みを実感させられる。とはいえ、やはり工事現場のミスは工事現場で気づかれるべきであろう。

 「バカよけ」という言葉があることは、ここで初めて知った。

http://youzo.cocolog-nifty.com/data/2006/03/post_6a36.html

 こちらでは、みずほ証券の誤発注に関して「バカよけ」の不備という側面から問題を指摘している。

http://blog.nikkeibp.co.jp/itpro/it-service/archives/2005/12/post_21.html

 ここのコメント欄でのやりとりがいい。ずばり「性悪説」である。SPAM対策の件で書いたことだが、私のサイトのフォーラムも「性悪説」の立場に転じたことになる。ブラックリスト方式とホワイトリスト方式の違いでいえば、ホワイトリストの側だ。フィルタリングに漏れが生じるブラックリスト方式と違って、適切なものだけを通すホワイトリスト方式は極めて安全だ。

※このような運営がされている掲示板のことを「検閲制」と言って毛嫌いするユーザーも多い。ただ、この広いインターネット上で、たった一つの掲示板に投稿が拒否されたところで「表現の自由」は損なわれまい。

 人(に関する情報)をシステムに組み込むことも、情報関係の人には理解されやすいが、現場や一般の市民には誤解される場面が多い。住民票のデータベースの主キーとなる項目を設定したいだけなのに「総背番号制を敷く気か」と批判されてしまう。「人は機械ではない」といった声が今にも聞こえてきそうである。しかし、これはあくまで仕事のためなのである。あなたの人格に番号をつけるわけではないし、あなたが怠けているときに鞭を打つためでもない。効率的にしたり、ミスを防いだりするためなのだ。それはあなた自身のためにもなる。
posted by tht at 15:39 | コメント (0) | トラックバック (0) | ながめよみのすすめ
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